キヤノンEOS R5の熱処理問題は焦りの象徴か?
キヤノンEOS R5の8K動画が3分余りしか録画できない問題
大きくて重い一眼レフ時代はキヤノンとニコンが2大巨頭。しかし、スマホユーザーが増えるに従い、コンパクトでライブビューに優れたミラーレス一眼が今や主流となり、そのミラーレスの世界ではソニーが圧勝しています。
そんな中で、キヤノンの4-6月期の営業損益が178億円の赤字に転落(前年同期は431億円の黒字)。7月29日の株価は10%以上も急落し、21年ぶりの安値となりました。(参考:日本経済新聞)
そのキヤノンが発表した希望の星・ミラーレス一眼のEOS R5は4月20日にキヤノンUSAが世界初の8K動画が可能という驚きのスペックを発表。その後、キヤノン公式サイトで発表までのカウントを掲載し、主にビデオグラファー向けの新時代のカメラとして大きな話題になりました。
ところが、海外メディアに8K撮影では熱停止する問題が発生すると指摘され、日本では人気カメラ系ユーチューバーのジェットダイスケ氏が8K動画の撮影が何分で停止するか実験レビューしたところ、3分余りで停止してしまった動画をアップしました。
メーカーの言いなりに、欠点を隠して長所ばかりを並べるカメラ系ユーチューバーが乱立するなか、ジェットダイスケ氏の動画は本人が意識していたかどうかは別として、非常に意義深い内容でした。
なお、キヤノンの公式HPには、次のように明記されています。
8K動画(RAW、DCI、UHD)時の撮影可能時間は最大約20分(常温時)、4K/60P(クロップ:[する])動画の場合は撮影可能時間が最大25分(常温時)となります。撮影状況や周辺環境によりカメラ内部の温度が上昇した場合はさらに撮影時間が短くなります。
環境次第で撮影時間が変化するとはいっても、8K最大20分と謳っていて、ユーチューバーが試したら3分余りというのはあまりにも落差が大きすぎます。
しかも、熱停止したあとの動画で、ジェット氏はバッテリーを外して熱を覚ましたことを明らかにしていますが、その動画で50万円近い高額商品としては、最近、稀に見る珍品だと感じました。
日本のトップメーカーであるキヤノンがなぜ、熱処理問題を十分にクリアーしていない高額商品を発売したのか?
カメラ部門が苦し紛れの見切り発車したのか、社内の風当たりがきついか、それともソニーに追いつくにはサプライズ的スペックでなければ、追いつけないと焦ったのか?
キヤノンに対するプロカメラマンの本音とは?
私は決してアンチ・キヤノンではありません。
自宅にある数台の写真プリント機はすべてキヤノン製を利用しています。
カメラやレンズもメーカーにはこだわりはなく、良いカメラやレンズであれば、キヤノン製も購入したいと思っています。しかし、いまのところ、キヤノンには欲しくなるような商品は皆無だったので、ライカ、ソニー、富士フイルムの機材を選択しました。
もっと小型でお洒落でフォーカスの早いカメラや、もっと小ぶりで見栄えの良い(Lの赤い帯は好きになれない)レンズがあれば、キヤノンを選択したと思います。
先日廃刊となったカメラ雑誌「カメラマン」が多くのプロカメラマンに最近のカメラ製品を自由に論じてもらう企画を掲載しました。
2019年12月号で「間違いだらけのカメラ選び」、2020年1月号で「間違いだらけのレンズ選び」。あまりに面白くて熟読してしまいました。
みなさん、おおむね私と同じ意見のようで、キヤノンにはとても厳しい意見が多い内容でした。
一方、フジフイルムのカメラやレンズ、ニコンのZ50とキットレンズ、最近のシグマやタムロンのレンズは高評価。ソニーに関してはあまりにも先行しすぎていて可愛げがないとまで評しています。
私も同じ感想で、誰かに撮影を依頼されたときには確実なソニー機を使用し、趣味の撮影にはライカや富士フイルム、さらにはフィルムカメラを持ち出しています。
世界のプロカメラマンがソニーを選択し始めた
世界のAP通信がソニー機材を採用
世界3大通信社のひとつ米国のAP通信がソニーと使用機材の2年間独占契約を結ぶことが明らかになりました。
ソニーの米国法人ソニー・エレクトロニクス(Sony Electronics Inc.)は7月23日、AP通信(本社:アメリカ合衆国)のフォトグラファーおよびビデオジャーナリスト用の撮影機材として、同社のフルサイズミラーレスカメラαシリーズやG Masterレンズ、4K対応のカムコーダーなどが採用されたと発表した。
発表によれば機材の納入は近日中におこなわれる見通しで、これにより、AP通信のフォトグラファーおよびビデオジャーナリストは初めて同一ブランドの撮影機材を使用することになるという。
本発表に関して、AP通信のダール・マクルーデン氏は「ソニーの映像機器におけるイノベーションの歩みは、AP通信の映像ジャーナリズムの未来像と合致しています」とコメントしており、同社機材の導入により、迅速かつ柔軟に映像ジャーナリズムの提供が可能になるだろうと、メッセージを寄せている。(出典:デジカメWatch)
かつて、電気屋のカメラと馬鹿にされてきたソニー機ですが、小型軽量で多くの可能性を秘めたミラーレスやセンサーの開発を長年地道に続けてきた成果なのかもしれません。
そのソニーが4K120pまで動画撮影が可能なα7SⅢを発表しました。
キヤノンEOS R5のように8Kは搭載しませんでしたが、その背景にはミラーレスカメラの宿命でもある熱処理問題と、現時点で多くのユーザーに8Kまで必要なのかという落ち着いた判断があったのではないかと推察しています。
α7SⅢは4K60Pで1時間以上の撮影可能
ミラーレスカメラの最大の弱点はバッテリーの消費量であり、熱処理問題です。
ソニーは長年、その熱処理問題に悩まされ、とくに動画中心のα7S系の開発は熱問題との戦いだったと思います。
そのソニーが今回、発売した新型α7SⅢは、見事に熱処理問題をクリアーして4K60Pでバッテリーが切れるまで1時間以上の撮影が可能だとしています。
キヤノンの8Kは視聴するモニターや編集できる機材も見当たらないため、私から見て不要なスペックですが、ソニーの4K60Pはプロの撮影現場では現実的なスペックだと思います。
それでも1時間撮影が可能だというのは素晴らしい安定感であり、地に足のついた進化だと感じました。
撮影時間だけでなく、画素数1200万画素に抑えた効果で暗所撮影でISOを上げてもノイズが少なく、暗所でも瞳AFが合焦し続けます。
その他、多くの点で実務に過不足ない機能が詰め込まれた機材なので、映像を良く分かっている人であれば、おそらく40万円前後と値段も安いソニーを選択するだろうなと思いながらα7SⅢのPR動画を見入ってしまいました。
最後に、キヤノンEOS R5はスチール機としてはEOS Rの不満点を解消したカメラに生まれ変わりました。ただ、45万円前後という価格がスチール機として妥当なのかは議論が分かれるかもしれません。
キヤノンには一眼レフトップメーカーの矜恃を持って地に足のついた誠実な商品を発売し続けて欲しいと願っています。