ニコンのフラグシップ「Nikon F3」はフィルム入門に最適な名機
30年ぶりに「Nikon F3」で撮影したくなった
月日が流れるのは早いものだ。
私が仕事用にNikon F3を新品で購入してから40年になろうとしている。
雨の日も風の日も故障のひとつなく撮影してくれた相棒だったが、30〜40代は仕事に忙殺され、撮影する心の余裕がなかった。休日は休養に当てたいほど疲れ切った日々だった。
2010年代になって心に余裕が生まれると、「仕事は程々に、やりたいことに熱中する生活に切り替えたい」と思うようになった。
写真撮影の現場を離れて30年近く。現場を離れていた間に発売されたカメラやレンズを見渡し、欲しい機材を可能な限り購入した。まるで過ぎ去った時間を取り戻すような作業だった。
欲しいミラーレスやデジタル一眼レフが一通り揃うと、なぜかNikon F3で撮影したいと思うようになった。
1980年代、ニコンの繁栄を支えたフラグシップは、どんな描写だったなのか、忘れかけていた記憶も取り戻したかった。
Nikon F3が上級者だけでなく初心者にも最適だと考える理由
私の手元には2台のNikon F3がある。
1台は仕事に使っていたF3。F3のロゴが薄れるほど酷使されたものだ(写真左)。塗装がはげて地金が見えている。もう1台は新品に近い個体。数年前、3万円台で譲ってもらった(写真右)。
ちなみに、仕事に使っていたF3だが、実は15年ほど前に処分しようと考えた。しかし、長男が「お父さんが死んでも形見らしきものがない。このカメラだけは残して欲しい」と言うので残していた。
ところが、バッテリーを外さず放置していたため、腐食し、シャッターが降りない。数年前、ニコンに修理を依頼したところ、シャッターは回復したが、絞り優先オートが復活せず、いまはもっぱら、フルマニュアル専用機である。
このNikon F3、1980年の発売当時、ボディだけで13万9000円だった。「AI NIKKOR 50㎜ f1.4」がセットだと17万5000円。いまとは物価が違うとはいえ、最近の新製品は高額なので、意外に安かったと感じるかもしれない。
人気機種だったので、現在は中古市場に膨大な個体で溢れ、ボディは3〜4万円もあれば手に入る。ヤフオクならもっと安い個体があるかもしれない。
一方、セットで売られた大口径レンズ「AI NIKKOR 50㎜ f1.4」は260gと軽量コンパクトだ。しかも、その表現力に改めて「これは銘玉だ」と感じた。それでも、いまは1万円台で転がっているはずだ。
フィルム撮影を楽しむにはNikon F3はベストチョイスだと思う。
その理由は・・・・
- 中古価格が激安。これが一番重要。
- 耐久性抜群。マニュアルと絞り優先オートだけで操作も簡単。
- マニュアル時はファインダー内に露出の正否が表示される。
- 膨大なFマウントレンズを研究したり、安く楽しめる。
- シャッター感覚良し。とくにモータードライブ装着時の単写は官能的だ。
- フラグシップなので所有する喜びもある。
安いのに、なにかと間違いないフィルムカメラがNikon F3である。
というわけで、私はNikon F3にモータードライブ、銘玉「AI NIKKOR 50㎜ f1.4」をつけて、30年ぶりにフィルムを通した。
総重量1.7gと重いシステムだが、モータードライブ装着時のグリップと官能的なシャッター感覚を味わいながら約3時間撮影した。
名機Nikon F3と「AI NIKKOR 50㎜ f1.4」の表現力(Web写真展)
東京・白金の緑に癒される
最初に向かったのは東京・白金。子供が幼い頃、頻繁に利用した東京都庭園美術館を目指した。
F3につけたモータードライブは連写よりも単写の音色と感触が素晴らしい。撮影意欲を高めてくれた。
東京都庭園美術館はあいにくの休館だった。
そのため、庭園の外側から撮影した。若干、鉄格子が前ボケで写り込んでいるが、静寂に包まれた緑の空間が美しかった。
庭園と車道に挟まれた歩道は緑で覆われて、その空間に身を置くだけで癒された。
昭和と令和の風景!「AI NIKKOR 50㎜ f1.4」の開放
港区白金の次は渋谷区恵比寿を目指した。
途中、JR目黒駅脇の跨線橋で休憩しながら風景を眺めた。
目黒は30年ほど前住んでいた街。駅前の商業ビルは当時と変わらず、いかにも「The 昭和」のままだった。
そんなビルも、いつかは新しいビルに建て替わる。そう感じてシャッターを切った。
跨線橋の下は、電車が頻繁に行き交うく。これから向かう恵比寿方面に、カメラを向けた。
恵比寿に向かう途中、まだ「AI NIKKOR 50㎜ f1.4」を開放で撮影していないことに気づいた。
恵比寿ガーデンプレイスに到着前に試したのが次の写真だ。
「AI NIKKOR 50㎜ f1.4」のボケは上品だと思った。絞って良し、開けて良しのレンズだ。
恵比寿ガーデンプレイスに到着。
逆光で撮影してみたのが下の写真。
穏やかな都市の緑地風景・撮影2日目
翌日、川面の風が心地よい目黒川を歩いた。
この日は、「AI NIKKOR 50㎜ f1.4」の高精細な描写力を確かめたいと思った。
上記の写真は木の葉をしっかり描写している。
次は私の専属モデル。
コロナ禍ではあるが、穏やかだ。この日常に感謝しながら、平和な情景にシャッターを切り続けた。
最後は目黒川。穏やかな川面、遠くに光るビル群を記録した。
撮影者:Nikon F3 + モータードライブMD-4 + Ai NIKKOR 50㎜ f1.4(フジカラー SUPERIA PREMIUM ISO400)
撮影補助:さきょう
撮影を終えて
いかがだったろうか。
久々にフィルムを通したF3システム。そのシャッター感覚が懐かしくもあり、若い頃と違って視力の低下した私にうまく撮れるだろうかという緊張感もあった。
最近のデジタルカメラでは見かけないような色表現もあったのではないかと思う。
今回使用したNikon F3は1982年、AI NIKKOR 50㎜ f1.4は1977年に誕生した。
この40年ほど間、日本のカメラは世界のマーケットを圧巻したが、F3は1980年代、その代表的機種だった。
いま、カメラ市場そのものが衰退の危機に直面しているが、F3で撮影しながら、改めて、このカメラが世界中のカメラファンに支持された理由が分かったような気がする。
最近、デジタル一眼レフやミラーレス機を多用しているが、F3のファインダーは実に見やすいのである。
使用した「AI NIKKOR 50㎜ f1.4」の明るさも一役買っているとは思うが、ファインダーの視野は広く、そしてクリアーだった。
このところ、フィルム撮影がマイブームとなった。デジタルカメラで撮影した写真に、若干、飽きてきたからだ。
たまにフィルムで撮影すると新鮮な気持ちになる。何よりも、古い機材の個性的な写真を見ると、デジタルとはまた異質な喜びを感じるのだ。
私は決してフィルム絶対論者ではない。デジタルもフィルムも、どちらも魅力的だと感じている。
ただ、たまにフィルムを嗜み、またデジタルに戻る。こんな写真生活が、いかにも趣味カメラらしくて好きなのである。