安レンズは描写と価格が正比例しないから面白い
中古相場の歪みが生み出すレンズ探しの面白さ
マップカメラが4月新品デジカメランキングを発表し、とうとうPENTAXの一眼レフ「K-3 MarkⅢ」がトップに立った。(参考)
「新製品なのだからトップに立っても珍しいことではない」と斜に構えてみる人もいるだろうが、新発売の直後でもトップに立てなかったカメラの方が多数派だ。しかも、「K-3 MarkⅢ」は時代の使命を終えたと言われた一眼レフである。
今回のランキングは二つの点で大きな意味がある。
ひとつは長年低迷していたPENTAX機が人気の機種を生み出したということ。スペックを見たら、K-3Ⅲよりも素晴らしい機種はたくさんあるだろう。しかし、カメラは所詮、趣味の道具である。お金を出してブサイクなカメラは買いたくない。
趣味カメラはデザインがスペック以上に重要だということを改めて示してくれた。
もうひとつは、時代の要請を終えたと見られていたデジタル一眼レフが数あるミラーレスを抑えてトップの座に立ったという事実だ。
素通しのファインダーに心地よいシャッター音。趣味カメラは撮影が楽しく心地よい機材を使いたい。デジタル一眼レフはミラーレスに勝る点があるという気づきを多くの人たちに与えた。
というわけで、今回はペンタックスの安レンズを真剣に取り上げたい。
最近、ライカレンズの中古相場が高騰している。1年間で5万円、10万円といった値上がりも散見される。
「それは異常だ」と感じたあなたは正常な感覚の持ち主だ。
しかし、世の中には「いま買わないと、この先、もっと値上がりして買えなくなってしまう」と焦るマニアらが存在する。その心理が相場のエンジンなのである。
一方で、相場の神様は「上がり続ける相場はない」と口を酸っぱくして話していた。
すべての価格は需給の関係で決まる。これ、経済の基本。しかし、中古販売業者や転売ヤーが介在するカメラ・レンズの中古相場は経済原則以上に急騰する。
なぜか?
生活必需品ではないからだ。贅沢品だから値上がりしても、普通の人は批判しない。喫煙家とカメラ趣味人は厳しいのである。
一方、安値のレンズなどに目を転じると、逆の景色が見えてくる。実力に見合わない安値で放置されている個体に出会えるからだ。
私は基本的に一度購入したレンズは手放さないが、まるで安値放置の銘柄を探す投資家のような気分だ。実力に見合わない安値放置レンズを探すのもロマンである。
では、安値レンズを探しに行ってみようではないか。
ペンタックスを代表する安レンズはデザインが素晴らしい
上記のレンズは、ペンタックスの系譜に連なる単焦点レンズたちだ。
ご紹介すると、左から・・・
- SMC PENTAX-DA 50mm F1.8(122g・Kマウント・AFレンズ)
- Super-Takumar 55mm F1.8(215g・M42マウント・MFレンズ)
- SMC PENTAX-DA35mm F2.4 AL(124g・Kマウント・AFレンズ)
写真から分かるように、3本ともシルエットが美しい。これは重要だ。私の拙い経験上、デザインの美しいレンズは写りも良いものだ。
この3本を約2万5000円足らずで入手した。
PENTAXには隠れた名品がある。しかも、デザインが良い。そして安い。
高額なライカレンズを楽しむのも人生。安価なレンズとの出会いを模索するのもまた人生である。
ペンタックスを代表するオールドレンズと現代の安レンズの特徴は?
オールドレンズの定番は安くても高級感があった!
上記写真は、オールドレンズファンにはおなじみの「Super-Takumar 55mm F1.8」である。
私はヤフオクで綺麗な個体を5000円で購入した。自分で整備できる人なら、もっと安く購入できるかもしれないし、逆に相場が上がっているかもしれない。
現物が届いて驚いたのは金属鏡筒が上質で作り込まれたレンズだったこと。半世紀以上前のオールドレンズにしてはヘリコイドも滑らかで、とても5000円のレンズには感じない。
もしライカから発売されていたら、このレンズはどんな価格になっていただろうかと空想した。ライカを代表する人気のオールドレンズ・貴婦人や8枚玉と比べても、物としての上質感は価格差ほど劣っていない。
しかし、このSuper-Takumarの担った歴史的役割を知って、その安さの正体が分かった。
ペンタックスの前身・旭光学が販売していた「Super-Takumar 55mm F1.8」は1960年代、フィルムカメラのキットレンズとして生産された。
当時、旭光学の一眼レフは売れに売れた。とくにペンタックス SPは全世界で400万台を売り上げたベストセラーとなった。そんな人気カメラのキットレンズだったのだから、「Super-Takumar 55mm F1.8」は星の数ほど世の中に出回った。
価格は需給で形成される。
売れに売れたカメラのキットレンズが星の数ほど中古市場には出回ったのだから安いのは当然である。つまり、需給ギャップが作り出した価格であり、決して品質や描写力が形成した価格ではないのだ。
後半で作例を紹介するが、5000円で買った、このレンズ、なかなか魅力的な描写だった。
ペンタックスの小型軽量な安レンズは高級感はないが、デザインが良い
オールドレンズの次は現代レンズにも触れておきたい。
上の写真は現在も新品販売されている35㎜と50㎜の単焦点レンズだ。
私は中古で購入したが、左の「SMC PENTAX-DA35mm F2.4 AL」が9000円、右の「SMC PENTAX-DA 50mm F1.8」は8000円だった。
新品でも1万円余りで買える。まさに中華レンズ以上の安さだ。
ともに「Super-Takumar」より100gほど軽い約120g。プラ鏡筒のため、まるで空気のように軽量コンパクトなレンズだ。
このレンズの最大の魅力は安レンズに見合わないデザイン性である。プラ鏡筒の安いレンズは他メーカーも販売しているが、「安いのだからデザインは我慢しろ」と言わんばかりの不細工なレンズが多い。
しかし、このレンズはちょっとセンスの良さを感じさせる。
最近は安い中華のMFレンズが増えてきたが、こちらはAFレンズだ。にもかかわらず、新品でも1万円台で手に入る。
「中華レンズもビックリ!」の稀有なAFレンズなのだ。
PENTAX KPの高感度性能と安レンズが織りなす描写力(夜間の作例)
高感度性能に優れたPENTAX KPとSuper-Takumarのコラボ
まず、PENTAX KPにSuper-Takumar 55mm F1.8をセットして撮影に臨んだ。もちろん、M42マウント→Kマウントの変換アダプター(ペンタックス純正・1800円で購入)を使用した。
PENTAX KPは高感度性能に優れたAPS-C機だ。(ISO感度100〜81万9200)ただ、通常、APS-Cはフルサイズに比べて暗所性能が劣るとも言われる。
果たして、どうなのか?
では、PENTAX KPとSuper-Takumarのコラボレーションをご覧ください。
1万円以下のAFレンズ「SMC PENTAX-DA 50mm F1.8」
次は、AFレンズ「SMC PENTAX-DA 50mm F1.8」である。
撮影者:PENTAX KP + Super-Takumar 55mm F1.8 & SMC DA 50mm F1.8
撮影補助:さきょう
撮影を終えて
PENTAX KPはスペックシート上はISO100から81万9200が可能だが、通常、81万9200なんていう感度は使わない。これは非常時の保険のようなものだ。
私の場合、どんなに上げてもISO感度は6400程度。それでノイズの目立たない写真を生成してくれるかどうかを試したかった。
今回は3200〜6400程度まで感度を上げて撮影したが、いかがだろうか?
私は常用に耐えうると感じた。
もうひとつは撮影に使用した安レンズの描写力である。価格と実力が見合っていないレンズたちだった。
アポズミやノクチルックスなど約100万円のライカレンズは素敵だ。しかし、1万円以下の名レンズに出会うのもまた面白いものだ。
「写りさえ良ければ、レンズに貴賎なし」
私は常日頃、そう考えている。
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