カメラ業界がプロやハイアマファーストでは衰退を早める理由!フルサイズミラーレス競争の残念な結果

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カメラ業界の現状に一石を投じたレポート

フルサイズミラーレス競争は期待ほどの変化を生んでいない

カメラ業界の未来はどうなるのか?

おそらく、今のままでは衰退の一途をたどるような悪い予感がしています。

最近、BCN+RというWebメディアが『死に体のデジカメ市場を救うのは「小さなカメラ」だ』と題したレポートを発表し、デジカメinfoがこの記事を紹介したところ、コメント欄では様々な意見が投稿され話題となっています。

BCN+Rのレポートは、キヤノンやニコン、パナソニックがフルサイズミラーレスに参入しましたが、蓋を開けてみると期待したほど変化が生まれていないと指摘した内容です。

主な趣旨は次の通り。(参考:死に体のデジカメ市場を救うのは「小さなカメラ」だ

  • 各社が発売しているフルサイズミラーレスはとにかくレンズやボディが大きくて重い。一眼レフからミラーレスへの移行段階で、劇的な小型化チャンスを得たにもかかわらず、多少の小型化にとどまっている。
  • 価格も高い。6月の平均単価は23万円超で、フルサイズ一眼レフの平均単価を追い抜いてしまっている。
  • レンズ交換型カメラは2018年1月の販売台数を100とした場合、6月が75.7。フルサイズミラーレスは増えてはいるが、爆発的に伸びているわけではない。
  • このままでは単なる打ち上げ花火に終わりかねない。数十万円もする重くて大きなカメラを受け入れる人は、ある一定の層に限られるからだ。
  • 閉塞状況に一石を投じたのがシグマ。7月11日に発表した「SIGMA fp」には驚いた。パスポートより小さなサイズで370g。他社が重厚長大なカメラのレガシーを引きずる中、それをあざ笑うようにあっさりとした「小さい」というコンセプト。

この内容に賛同したり、販売台数の比較の仕方に疑問を呈したり、カメラ業界に提案したりと、カメラファンの熱い思いが伝わってくるコメントが相次ぎました。

これからのカメラは「小型」が重要という指摘には賛同する

BCN+Rの記事が最終的に言いたいのは、これからカメラ作りは「小型」が重要だという点です。

私は、シグマの「SIGMA fp」が一石を投じるかは疑問もありますが、「小さい」ことが重要というのは大賛成です。

当ブログでは今年2月、「時代が求めているカメラとは?2019年CP+を前に思うこと」と題し、小さくても高機能・高性能なカメラが魅力的であり、スマホを意識したカメラ作りが重要なことを提案していました。

時代が求めているカメラとは?2019年CP+を前に思うこと
2019年CP+の最大のテーマは何だろうか? カメラと写真映像のワールドプレミアショーCP+が今年も28日から始まる。去年も行きたいと思っていたが、仕事との折り合いがつかず、見送った。 今年は招待状もいただいたので何とかして参加したいと考えている。 去年はCP+直前に、ソニーがフルサイズミラーレスのα7Ⅲを発表。20万円台前半というフルサイズにしては格安な価格と、上位機種と遜色ないAF性能やバッテリー容量、動画性能だったため、空前のお祭り騒ぎとなった。 一眼レフからミラーレスへの時代転換を象徴するゲームチェンジャーの登場で、業界の2巨頭キャノンとニコンの影が薄く見えたものだ。 昨年秋に茶飲んと...

この記事の中で、私は次のように書きました。

カメラにとって最も大切なことは何か?

それは小型軽量なことだ。普段持ち歩けないようでは日々の生活や決定的な瞬間を切り取ることができない。

普段、カメラを持ち歩かない人でもスマホは持ち歩いています。

どんなに高性能なカメラを開発しても、スマホユーザーの心に刺さらなければ、販売台数は増加しないし、何よりもカメラ文化は衰退します。

にもかかわらず、なぜ、重くて大きなカメラやレンズを作ってしまうのでしょうか?

スマホユーザーがカメラに目を向けない背景

決して「小ささは正義」ではないプロの現場

1980年代、私が仕事に使用していたカメラはニコンF3でした。このカメラは多少手荒に扱っても壊れることはなく、まさに名機だったと思います。

ただ、私はモータードライブをつけていたこともあって多少、重さを感じていました。ですから、日常、持ち出して撮影することは少なかったと記憶しています。

あれから30年余り、久しぶりにカメラを再開して驚いたのは、技術革新が進んだ今でも、依然として上位機種は重くて大きいということでした。

昨年くらいから、カメラメーカーも素人を意識するようになりましたが、それ以前はプロやハイアマの声を重視した商品作りに軸足があったようにも思えます。

しかし、プロやハイアマファーストでは、ますます売れないカメラが量産される恐れがあります。

というのは、プロの現場では、小さいカメラで撮影しているとバカにされる空気感があるのです。

ですから、プロはカメラの小型化を最優先事項には考えません。

もちろん、高性能なカメラやレンズを小型化するには技術的制約があります。

その技術的ハードルとプロやハイアマの嗜好性にメーカーは安住していないか、もう一度、再考して欲しいと思うのです。

ソニーとフジフイルムが健闘する要因とは?

衰退するカメラ業界において健闘しているのが、ソニーとフジフイルムです。

昨年(2018年)の販売台数は、各社が販売台数を減らしているなかで、フジフイルムだけが前年比16%超の大幅な伸びとなっています。

また、販売金額はソニーが前年比114.5%とふた桁の増収で、最近のソニーの勢いが金額にも反映された格好です。

カメラ市場はソニーと富士フイルムの時代が到来するのか!
キヤノンとニコンが苦戦し、ソニーとフジが売上増! 販売台数は富士フイルムだけが伸びた! 近い将来、カメラ市場の大変動と苦境を予兆させる動きが鮮明になりました。 「BCN+R」が、2018年4月から2019年3月までにカメラメーカーが販売した台数と販売金額をもとに「トップシェアすら大苦戦するカメラ市場に明日はあるのか」と題した考察記事を掲載しました。(参考:BCN+R 「トップシェアすら大苦戦するカメラ市場に明日はあるのか」) 販売シェアの順位は、キヤノン、ニコン、ソニー、オリンパス、富士フイルムの順と変わっていませんが、販売台数や販売金額の増減を見ると、各メーカーの明暗がくっきり分かれました。...

ただ、健闘しているのには、それなりに理由があるはずです。

まず、フジフイルムは多くのメーカーがフルサイズミラーレスに参入する中、小型のAPS-Cカメラを主軸にしたままです。

APS-Cはフルサイズに比べて小型軽量なだけでなく、ボディーもレンズも低価格です。記録用のカメラはアウトプット先はパソコンやスマホ画面ですから、何もフルサイズにこだわる必要もありません。

ですから、X-T30のような低価格な高品質カメラが売れるのは理解できます。

一方のソニーですが、一言で言えば、技術の出し惜しみがなく、一般ユーザーにも魅力的な商品を開発しているということです。

先日発表されたRX100M7ひとつとっても、AFは最上位機種α9と同等の高速AF。コンデジだからといって初心者を舐めたようなスペックにはなっていません。

そうした「突き抜け感」のあるのがソニーの魅力です。

プロカメラマンの中には、1型センサーだからボケないと言っている人もいましたが、このカメラの想定用途は主に「記録用」です。

ですから、ボケよりもAFの速さが貴重なのです。

好調なカメラメーカーに感じる課題

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フジフイルムは素人目線の革新が課題

ただ、そんなフジフイルムやソニーにも首を傾げたくなる点があります。

まず、フジフイルムは、上位機種に手ブレ補正搭載のカメラが少ない点です。現状ではX-H1だけ。開発陣が手ブレ補正による画質への影響を嫌がっているという話も聞いたことがあります。

それが本当かどうかは分かりませんが、いまや、どんなカメラでも旅先では静止画と動画、両方のニーズがあります。「動画はX-H1、静止画はX-T3を使ってください」ということだとしたら、とても消費者ファーストとは言えません。

さらには、上位機種にバリアングルの液晶モニターがありません。私は旅先にはソニーRX100M5を携帯していますが、この180度チルト式モニターは様々な場面で便利なものです。

フジフイルムはフイルム時代の終焉を見据えて、古森重隆会長の指導力と様々な分野の革新で成長した企業でもあります。

カメラ分野でも、素人目線の革新を望みたいものです。

ソニーは価格とレンズの重さが課題

一方、フルサイズミラーレスカメラという領域を切り開いてきたソニーですが、より一般ユーザーの裾野を広げるには、レンズの価格と重さを考え直す時期に来ているのではないかと思います。

特に、あの重くて高価なGMレンズ。私も100-400GMレンズ「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」(1395g)を購入しましたが、望遠レンズなのである程度の重さや大きさは許容できます。

しかし、総じてGMレンズは重すぎます。

標準域ズームレンズの「FE 24-70mm F2.8 GM」は886g。仮にα7Ⅲ(565g)につけたら、合計1451g。とても気楽に旅行や散歩に持ち出せる代物ではありません。

レンズが重くて高いというのは、フルサイズの購入を躊躇させる最大の要因です。

最近、ソニーは無印の「FE 35mm F1.8」を発売しましたが、280gと小型軽量。現在6万円台です。

撒き餌レンズ的に価格を引き下げたら、消費者がフルサイズを購入するハードルが下がるはずです。

最後にまとめ

小型軽量で安くて高品質なカメラが簡単にカメラ業界を右肩上がりに変化させるかどうかは分かりません。

ただ、一部マニアやハイアマの買い替え需要に頼っているようでは、カメラ業界も停滞するでしょう。

いま、カメラ業界が注目すべきはプロやハイアマの意見よりもスマホユーザーの声ではないかと感じます。

1990年初夏、私はソ連共産主義を崩壊させたゴルバチョフ大統領を撮影するため、モスクワのクレムリン宮殿で待ち受けていました。

当時、彼は世界中の注目の的、まさにアイドルでした。

そのとき、私のカメラバックには普段使い慣れたニコンF3とは別に、もう一台、別のカメラが入っていました。先輩から「一度使って見て」と渡されたキヤノンのデジタルカメラでした。(もしかしたら試作機だったのかもしれません)

それが私が初めて遭遇したデジタルカメラでした。

あれから30年近くたったいま、フイルムカメラの時代は終焉し、デジタルカメラも一眼レフからミラーレスに潮流を変え、そしてスマホの利便性に苦戦しています。

ただ、長い時代を見てきて感じるのは、最後に市場を制するのは、性能よりも利便性に優れた商品だったという事実です。

カメラメーカーはスマホよりも利便性に優れたカメラ作りを忘れてはいけないと思います。

コメント

  1. D500ユーザー より:

    本文を拝見したときにAPSを記録用と割り切っているところが気になりました。色々なコラムでAPSをエントリー向けやら記録用やらとフルサイズより一段低い位置付けにしていますが、その考え方がデジカメ業界を衰退させているひとつの要因だと思います。
    カメラに限らずクルマにしても腕時計にしても家電にしても消費者はみんな高性能で見栄えがよいものを安く買いたいと思っています。
    メーカーもそんな消費者心理を汲みとって努力を重ねているように感じます。しかし、カメラ業界は一部のプロのために値段は度外視してとにかく高性能の製品を作り続けている状態です。
    メディアもどんどん値段を釣り上げている高性能カメラを優先してクローズアップして、子供の運動会を撮るような普通の消費者向けのカメラなんかバカにして取り上げもしないのが現状です。
    APSでもフルサイズに負けないこんな綺麗に撮れるいいカメラが出来ました、値段もこんなにリーズナブルです。みたいな状況にならないとデジカメの復権は遠いと感じました。

    • 左京 より:

      「記録用と割り切っている」のではなく、カメラは記録こそが本分だと思っているのです。
      私は若い頃、記録のプロになろうと日夜、勉強していましたが、カメラの記録性は尊いものです。
      カメラの記録性を高めるのはスペックもさることながら携帯性です。その意味ではAPS-Cは報道をはじめ記録用としてはフルサイズにない利便性があります。海外で活躍しているカメラマンには富士フイルムのX-T2を使用し活躍している写真ジャーナリストもいます。
      D500ユーザーさんは「子供の運動会を撮るような普通の消費者向けのカメラなんかバカにして取り上げもしないのが現状です」とコメントされていますが、「記録用」を低いヒエラルキーでお考えですか?
      フルサイズ、APS、コンデジ、スマホ、それぞれ利点があります。どれが立派だといったヒエラルキーではないと考えています。
      事実、運動会でも活躍しそうなコンデジRX100M7は多くの人たちが取り上げ、バカ売れしている状態です。
      いずれにしても、コメントありがとうございました。
      様々な意見があった方がブログも活性化します。今後ともよろしくお願いいたします。

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