カメラは性能以上に見た目が大事だと実証したモデル「Nikon Z fc」
一部メーカーへの人気集中はユーザーにとって決して得策ではない
最近、驚いたことがある。
キヤノンが広角ズーム「RF14-35mm F4 L IS USM」を正式発表したが、その価格である。
マップカメラやカメラのキタムラの予約価格は21万2850円。大三元ではない。F4の小三元である。
「これが最近のレンズ相場なのかもしれない」「私の感覚がおかしいのか?」とも思った。
しかし、掲示板には「大三元かと思うような価格」「これは高い!」「強気すぎませんか」という感想が相次ぎ、あるプロカメラマンはYouTubeで「暴君だ」と叫んでいた。
ただ、こうした事態に至った責任の一端は、販売ランキングで後退した長年のライバル・ニコンにもあると思う。気の抜けない競争相手の存在は大切だ。
私はいずれEOS R5やR6などキヤノン機も使ってみたい。ただ、少なくとも複数メーカーが競い合う姿が望ましいとも考えている。所有するメーカーがダントツで強くなれば嬉しいのも人情だが、その結果として強気の売り手市場が降りかからないことを祈りたい。
さて、その苦境にあるニコンが久々に新型カメラを発売し話題になっている。
ボディデザインに敗因の一端があると指摘する人も多いのに抜本的に変えないニコンに懸念を感じていたが、ようやく人気のモデルが登場した。1882年に発売した懐かしのフィルムカメラNikon FM2のデザイン要素を取り入れた「Nikon Z fc」である。
6月29日に正式発表され、予約受付からわずか2日後には「想定を超える大変多くのご予約をいただいております」とした上で、供給遅延に陥る可能性をアナウンスした。大人気なのだ。当然だ。このルックスである。
今回は前回のブログで予告したように、ニコンD850の暗所撮影を紹介する予定だったが、急遽、大人気の「Nikon Z fc」に迫ってみたいと思う。ご了承いただきたい。
良き趣味カメラは写りに直接関係ない部分にお金をかけている
私の愛用するライカはボディのデザインや質感など写真の写りに直接関係のない部分に価格の大部分を費やしているように感じることがある。
しかし、その作り込みと質感こそが撮影するモチベーションを高め、結果として良い写真を生むものだ。
今回発売された「Nikon Z fc」はまさにそんなモデルだ。
のちほど詳細するが、性能はすでに発売されているNikon Z50をほぼ踏襲。しかし、ボディの材質はマグネシウム合金。ダイヤルはアルミ削り出し。天面の表示は全て刻印だ。昨今のデザインはさておき性能は超一級品という高額ミラーレスとは真逆のプロダクトである。
それゆえ、軍艦部を見ただけで、私のようなNIKON F3が仕事道具だった世代には懐かしいし、若い世代には新鮮に感じるはずだ。世代を超えて魅力的なデザインに仕上がっている。
しかも、上品な色合いのカラーバリエーションも揃えてきた。キャンペーン中は張り替えを無料サービスする。(キャンペーンは各色キャンペーンの予定数量がなくなり次第終了)
なお、キャンペーン終了後も、張替サービス料は4950円(税込)。ちなみに、私が所有しているライカMアラカルト(Typ240)は張り替えが3万円(税別)だった。それに比べると、ニコンはだいぶ安い。
社会人2年生の娘はミントが欲しいと言っている。私はグレーが欲しい。ペアで買うかどうか?いずれにしても、世代を超えて欲しくなるカメラだと思う。
レトロなカメラ対決!「Nikon Z fc」vs「FUJIFILM X-T30」
「Nikon Z fc」は外見と違って現代のライフスタイルをとても意識したカメラ
では、基本スペックはどうなのか?
はっきり言って、この「Nikon Z fc」はスペックで選ぶべきカメラではない。ルックスを見て好みなら買いだ。好みでなければ、見送ればいいのだ。
しかし、基本スペックぐらいは気になるという人もいるだろう。
というわけで、同じニコンのAPS-Cセンサー「Z50」、さらには最大のライバル機になるであろう、富士フイルムの「X-T30」と順番に比較してみたい。
まず、主にNikon Z50が優れている点
- フラッシュが内蔵されている
- Fnボタンが多い
- 価格が安い
一方、Nikon Z fcの優位点は、次の写真に凝縮されている。
Z50は液晶モニターが下に開く方式だが、Z fcはバリアングルである。ミニ三脚に据えて液晶モニターを見ながら動画や静止画を撮影することができる。
さらに、静止画、動画問わず、人物やペットの瞳にピントが合う瞳AFや動物AFを搭載した。これは記念写真やペットと散歩した際、利便性が高そうだ。
要するに、ボディはレトロだが、現代のライフスタイルによりマッチさせたカメラに仕上げている。
安さならニコンZ50。持ち出す喜びや撮影のモチベーションならZ fcという選択になりそうだ。
レンズが豊富な「X-T30」か?実在カメラのオマージュ「Z fc」か?
さて、いよいよ本命ライバルとの対決だ。
私は、そのサイズ感やデザイン性、同じAPS-Cセンサーという点で、富士フイルムのX-T30が最大のライバルになると予想している。
X-T30は私も所有していたが、軽量コンパクトで撮影も軽快、実に素晴らしいカメラだった。
フラッグシップX-T4が登場した際、X-T3とともに手放してしまったが、正直言ってX-T30は手元に置いておくべきだったと後悔している。
というわけで、Nikon Z fcとFUJIFILM X-T30のスペックを比較した表である。
– | Nikon Z fc | FUJIFILM X-T30 |
発売日 | 2021年7月 | 2019年3月 |
センサー・有効画素数 | APS-Cセンサー・2088万画素 | APS-Cセンサー・2610万画素 |
撮影感度 | ISO100〜51200 | ISO160~12800 |
連射性能(メカニカル) | 秒間5コマ | 秒間8コマ |
シャッタースピード | 1/4000秒~30秒 | 1/4000秒~15分 |
手振れ補正 | なし | なし |
動画 | 4K29.97p | 4K29.97p |
液晶モニター | バリアングル液晶・タッチパネル | チルト式液晶・タッチパネル |
ファインダー倍率 | 0.68倍(35mm判換算) | 0.62倍(35mm判換算) |
サイズ | 134.5×93.5×43.5 mm | 118.4×82.8×46.8 mm |
重さ | 390g | 333g |
価格(7月3日現在・ビックカメラ) | 11万6800円 | 9万4810円 |
もちろん、Z cfは新しい機種なのでバリアングル液晶など、より今風な機能を備えている。ただ、X-T30もまた、2019年発売とやや年月が経っているが、当時のフラグシップX-T3と同一センサー・同一処理エンジンをうたっていただけあって基本スペックはいまも高水準にある。
カメラは見た目で選ぶと幸せになれる
先ほど申し上げたように、レトロ調のカメラはデザイン性で選択するもので、過度にスペックにこだわるモデルではない。自分の感性に合致し、長く愛せそうなスタイルのカメラを選べば、写真生活はワクワクするものだ。
とくに最近のカメラは初心者用の機種でも極めて高スペックだ。どれを選んでも過不足なく撮影することができる。
少し極端な話をしよう。
私は若い頃、野球の試合をNikon F3(重さ715g)とモータードライブ(重さ620g)、そして巨大な望遠レンズというシステムで撮影していた。単三電池8本を詰めたモータードライブは毎秒6コマに高速化してくれる頼もしいマシンだった。
このシステムで撮影した写真のうち、投手の写真は手を離れた瞬間の白球も写っていなければボツ。打者の写真は打った瞬間の打球も入っていなければボツ。商品にならなかった。ただ、うまく撮れていなくても機材のせいにはしなかった。
あの当時、Nikon F3に毎秒6コマのモータードライブというシステムでも何とかなったものだ。
極端な話を申し上げたのも、今回登場したレトロ調のカメラはさほどスペックは高くないとは言っても、Nikon Z fcは秒間5コマ、X-T30は秒間8コマである。あんなコンパクトなボディでNikon F3の巨大高速システムと同等か、それ以上の連射性能なのだ。望遠レンズをつけたら、ちょっとしたスポーツ撮影も可能だと思う。
私はここ数年のカメラにおいてスペック云々の比較話は実はナンセンスだと思っている。
だから、私のカメラ選びの基準は性能スペックよりも見た目。持ち出したいと思えるデザイン、あるいはキャラクターかどうかである。
その視点で趣味カメラを選べば、まずは後悔しない。いや、幸せになれると思う。
最後に、今回発売されたZ fcはAPS-Cセンサーだ。ネット上には「次はフルサイズでF2やF3のようなモデルを作って欲しい」という声も少なくなかった。おそらく今回のZ fcはニコンが次のステップに踏み出すかどうか、その試金石になるのではないかと感じている。
つまり、Z fcはレトロなフルサイズ開発に向けたクラウドファンディングかもしれない。
そんな期待感すら湧いてくる。
やはりカメラにはワクワク感が必要だ。ニコンはZ fcの反響を見て、今時のカメラファンは何にワクワクするのか、その正体を実感したのではないかと思う。
コメント
クラファンいいですね
フルサイズZfにむけて一票予約しておきました
いやあ、どうなるかわかりませんけど、期待したいですね。(笑)