美術工芸品的オールドレンズ・貴婦人の魅力を探る
2021年のカメラ業界は物凄い幕開けとなった!
コロナ対策の緊急事態宣言が2月に延長されそうだ。フリーのプロカメラマンや写真家が「仕事が激減した」と嘆いているが、趣味カメラの私もスナップに出かける気分になれない。
しかし、人類が直面した歴史的な事態が進行しているのである。人々の表情や行動を記録しておきたい。緊急事態宣言が発表された最初の週末、一念発起してスナップ撮影した。使用機材はLeica M10-Pと初代Summilux 50㎜ f1.4、いわゆる貴婦人である。所有個体は1959年生まれ。還暦過ぎのお姉さん?だ。
少しだけカメラ雑談をしたい。カメラ販売数の激減にコロナ禍が拍車をかけるなか、2021年のカメラ業界は稀に見る派手な幕開けとなった。
1月26日、ソニーが初めてフラグシップという称号を与えた機種「α1」を発表。日頃、スペックでカメラを選択しない私でさえ興味をそそられた歴史的カメラだった。
一言でいえば、静止画も動画も隙がなく、どんなシーンでも過不足のない機能・性能を発揮する、突き抜けたプロ機である。
価格も約90万円と、おいそれと買える代物ではない。法人需要を想定したのだろう。「そんな高価なカメラは自分には関係ない」と考えるカメラファンもいると思う。ただ、F1レーシングカーに搭載された技術が時を経て一般車に反映されるが如く、α1に盛り込まれた技術の一部は年内発売とみられるα7Ⅲの後継機α7Ⅳにも反映されるはずだ。一般ユーザーにも大いに関係があるのだ。
フジフイルムも大胆な戦略に打って出た。フルサイズ並みの小型ボディに設計された中判カメラ「GFX100S」(フジはラージセンサーと呼んでいる)を発表した。有効1億200万画素に手振れ補正も積んでいながら、店頭予想価格70万円前後。α1よりも安い。フジは中判の価格を引き下げ、消費者に中判かフルサイズか、選択を迫りたいのだろう。
フジフイルムはキヤノンやニコンがフルサイズに参入するなか、追随せず、従来通りAPS-Cの販売にとどめた。その視線の先にあったのは、中判カメラをフルサイズと同サイズ、同価格帯でぶつける戦略を練っていたとしたら、なかなかの策士だ。今後、汎用PCの性能が向上し、大容量データでもサクサク動く時代になれば、中判とフルサイズが同じ土俵で戦う日が近いかもしれない。
古くて新しい復刻ノクチと還暦過ぎた貴婦人ことズミルックス
日本のカメラメーカーとは全く異次元の戦略で成功しているのがライカだが、ソニーやフジとはまた別次元の発表で話題となった。
初代ノクチルックスの復刻版「Noctilux-M f1.2/50mm ASPH.」の発表である。通常版「ブラックアルマイト仕上げ」は税別90万円、世界限定100本の「シルバークローム仕上げ」は税別190万円。相変わらず、価格も異次元だ。
ただ、それでも決して高くないと感じるファンがいる。それはなぜか?
ライカは1966年に「初代Noctilux 50mmf1.2」を発売したが、このレンズは手磨きによる非球面だったため、1975年まで1757本しか生産されなかった。絞り開放時の絵画的で個性的な描写と、絞った時のクリアな描写が特徴で、ライカ自身も「屈指の銘レンズ」と呼んでいる。
このため、オリジナルは中古相場で300万円を上回っている。復刻版は光学設計と描写を初代ノクチルックスに近づけたもの。新品だから鏡胴の傷やレンズのクモリ・カビを警戒する必要もない。オリジナルの希少性や相場を知るマニアにとっては税込99万円でも魅力的に感じたに違いない。
さて、本題に入りたい。
今回、私がスナップに使用したのは「初代Summilux 50㎜ f1.4」。「初代Noctilux 50mmf1.2」よりも7年遡る1959年に発売された。Noctiluxが登場する前は、ライカにとって最も明るい大口径レンズといえば、Summiluxだった。
1950年代といえば、ライカの黄金期。初代Summiluxは、鏡胴の美しさ、還暦を過ぎても滑らかなヘリコイドの気持ち良さなど、当時の技術力を彷彿とさせるレンズだ。近年、貴婦人の中古相場が上昇しているが、美術工芸品のように鑑賞し触る喜びも相場の引き上げ要因になっていると感じる。
では、描写力は、いかほどのものなのか?
ライカ黄金期の銘レンズ・貴婦人を試す意味合いも込めてスナップ撮影に出かけた。
貴婦人はスナップが似合うレンズだと改めて実感した理由とは?
コロナ禍に負けない!街の明るい表情と空気感に心和むスナップだった
緊急事態宣言スタートの翌日(1月9日)、週末の東京・中目黒を歩いた。
深夜の飲食店営業や不要不急の外出自粛が呼びかけられたが、全く外出しないわけにはいかない。運動不足で別の病気になる心配があるし、引きこもりは精神的にも悪い。ソーシャルディスタンスを心がけてスナップに出かけたが、思いのほか道ゆく人たちの表情は明るく、正直、ホッとした。
まずは目黒区役所前から出発した。目黒区役所前からスタートしたのは、ある理由があった。のちほど説明したい。
目黒川沿いを歩いた。
この日は快晴。休日ということもあって、若い人たちの姿が目立った。
目黒川沿いは店窓を眺めて歩くだけでも楽しい。
目黒川沿いはファンション系や飲食系のお店が多いが、小さな書店を見つけた。路面棚に書籍があるだけで、知的な空気感が漂うものだ。こうした店舗もまた素敵だ。
徐々に、中目黒の人気スポットに近づいてきた。
いまや、中目黒のランドマーク的存在「スターバックス リザーブ® ロースタリー 東京」。相変わらずの人気だ。
「スターバックス リザーブ® ロースタリー 東京」は店内が密にならないように整理券を発券していた。(公式ホームページ)
おしゃれなバンバーク屋さんの看板。ピントを合わせた。
次に、左下の花にピントを合わせた。
画面隅の解像はどうだろう。私には十分だ。このくらい柔らかいほうが味がある。
次の写真は赤と黄色に注目して欲しい。M10-Pと貴婦人のコンビは発色も素晴らしい。まるで現代レンズのような色再現と艶感だ。
あたりは徐々に薄暗くなってきたので開放F1.4で撮影した。背景ボケはさほどうるさくない。ピント面のやや滲んだ描写も悪くない。いや、いい。
次に、縦位置で開放F1.4。前後をボカした。
終点の中目黒駅に近づいてきた。
最後にもう一度、貴婦人を開放した。
撮影者:M10-P Safari+Summilux 50㎜ f1.4 1st
撮影補助:さきょう
アポズミクロン&現行ズミルックスと貴婦人の描写を比較してみた
今回は目黒区役所前をスタートし、目黒川沿いを1周して中目黒駅に戻るコースでスナップ撮影した。
今年元日、初詣の際は「APO Summicron 50mm F2 ASPH」でスナップしたが、この時も目黒区役所前を出発した。今回も区役所を出発したのは、同じ被写体を撮影して描写を比較したいと考えたからだ。
次の写真をご覧になってほしい。貴婦人とアポズミで撮影した写真だが、どちらで撮影したものか見分けることができるだろうか?
いずれも、上が貴婦人、下がアポズミで撮影した写真だ。分かった人は相当な眼力だ。アポズミクロンといえば、ライカ最高峰の解像性能を誇るレンズ。61年前に誕生した貴婦人がいい勝負をしているのだから驚きだ。
参考に、現行Summilux 50mm f1.4とも比較したい。まさに最古参と最新の対決である。
上が貴婦人、下が最新のズミルックスだ。撮影条件が異なるので、何ともいえないが、端正な現代レンズと味のオールドレンズという感じがする。描写の評価は読者に委ねたい。
今回使用した貴婦人こと「初代Summilux 50㎜ F1.4」だが、さすがに61年前の個体なので、当初、中玉周辺にややクモリがみられた。そのため、関東カメラでオーバーホールしていただいた。貴婦人のクリアな描写はその恩恵も影響しているかもしれない。
OHの料金は決して安くはないが、関東カメラさんはライカ社に準ずる修理規格で修理している。安心して任せることができた。(関東カメラのOH説明)
いずれにしても、61年前のレンズが近代レンズと競えるポテンシャルを秘めていることに驚き、その魅力を再確認したスナップであった。
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