富士フイルム人気が加速した背景は何か?
マップカメラの販売ランキングで1、3、4、5位を独占状態
富士フイルムといえば、最近は新型コロナの治療薬アビガンを生産・販売する企業として評価が高いが、カメラ事業もすこぶる好調だ。
とくに、バリアングル、手ぶれ補正、高速AFや多彩なフィルムシミュレーションを搭載したAPS-CミラーレスX-T4が発売され、名実ともに、富士フイルムの人気は本物になったようである。
この度、私も株主となっているマップカメラが4月のデジタルカメラの販売ランキングを発表したが、なんとトップはX-T4、コンデジのX100Vが3位、3年前に発売されたX-H1が人気再燃で4位、昨年発売されたX-Pro3が5位と、上位独占という異例の事態になっている。(参考:THE MAP TIMES)
- X-T4(富士フイルム)
- OM-D E-M1 Mark III(オリンパス)
- X100V(富士フイルム)
- X-H1(富士フイルム)
- X-Pro3(富士フイルム)
- α7Ⅲ(ソニー)
- fp(シグマ)
- EOS 90D(キヤノン)
- α6400(ソニー)
- GRⅢ(リコー)
1位となった富士フイルムのX-T4(APS-C)をはじめ、1位から5位までは非フルサイズ機である。
ソニー、キヤノン、ニコンが繰り広げたフルサイズミラーレス戦争は、もはや昔話になった感さえ感じさせるランキング結果である。
ヨドバシカメラでもX-T4が1、2位を独占
マップカメラ はコアなカメラ好きの販売店である。
初心者など、より幅広いユーザーを抱えているとみられるヨドバシカメラ も4月下期の売れ筋ベストテンを発表したが、こちらもX-T4が1〜2位を独占した。(参考:CAPA CAMERA WEB)
- X-T4ブラック ボディ(富士フイルム)
- X-T4レンズキットブラック(富士フイルム)
- SIGMA fpレンズキット(シグマ)
- OM-D E-M1 Mark IIIボディ(オリンパス)
- α7R IVボディ(ソニー)
- α6600高倍率ズームレンズキット(ソニー)
- α7 IIIボディ(ソニー)
- EOS-1D X Mark IIIボディ(キヤノン)
- LUMIX S1Hボディ(パナソニック)
- E-M1 Mark IIIボディ + ED 12-40mm F2.8 PRO(オリンパス)
富士フイルムはニコンやキヤノンがソニーの後を追ってフルサイズミラーレスに参入した際、フルサイズを選択せず、APS-Cと中判という独自の道を歩んだ。
その果実が徐々に実り、機能全盛りにしたX-T4はまさにその最終兵器と言っていいだろう。
しかも、まだブラックボディが発売されたばかり。5月21日にはシルバーボディのX-T3も発売される予定なので、さらに販売台数を積み増すものと見られる。
フジ人気の背景にあるものとは?
フルサイズ信仰が根強い現在、ニコンやキヤノンといった伝統的カメラメーカーの機材を使って仕事をしてきたプロカメラマンから見たら、この結果は信じられないかもしれない。
いま、なぜ、富士フイルム人気なのか?
カメラ選びに大切なことは、①吐き出される写真の良さ②写欲を高めるスタイル③機械としての信頼性である。
最近のカメラは、どの機種も性能は相当向上し、上位機種を選ぶ限り、どのメーカーも大きな差はなくなった。
しかし、絶対的に異なる点がある。
それはカメラのスタイルと、JPEGで吐き出される写真の美しさである。
富士フイルムは、伝統的なフィルムメーカーだけあって吐き出される写真は抜群だ。さらに、カメラのスタイルも小ぶりかつ端正で美しい。持ち出したくなるカメラだ。
1位を独占したX-T4は、さらにバリアングル、手ぶれ補正、高速AFなど基本性能を過不足なく搭載したのだから、今回の結果は当然の結果だと思う。
2020年代は所有欲を満たすカメラが市場を制する
消費者は本当に高性能なカメラを求めているのか?
最近、キヤノンやニコンのすパック競争を見ていると、一般ユーザーの指向性と、どんどん解離しているように感じる。
これまでカメラ業界は、これだけ高性能なのだから、50万円以上の値付けは当然といった、高性能で高額なカメラを販売することでサヤをとる商法を続けてきたが、その数量が出ないことが現在のカメラ業界の低迷を招いている。
連写性能が10コマから12コマや15コマ、瞳AFが人間だけなく動物、さらに鳥にも適用されるといった進化は不要ではないが、一般ユーザーにとっては大金をはたいても欲しいカメラではない。
むしろ、お金では手に入らない希少なカメラ、ライカM3やM4のようなファッショナブルなカメラ、使い古すほど味が出る真鍮製のカメラといった所有欲を満たしてくれるカメラこそ、2020年代のトレンドになると思う。
というのも、カメラの基本性能は相当、向上し、旧型カメラであっても普段使いには何も不自由しなくなった。
例えば、発売当初から販売に苦しみながら、販売3年目にして人気機種となっているX-H1は、ある意味、購入層の意識がよくわかるカメラかもしれない。
2年前に発売されたX-H1が再評価されている背景
X-H1は富士フイルムのフラッグシップとして、2018年3月、 23万円台で発売された。しかし、同じ3月、ソニーがフルサイズのα7ⅢをX-H1よりも安い22万円台で発売した。
当然、多くのユーザーはAPS-CのX-H1より安いフルサイズのα7Ⅲを選択した。まさに、ソニーの巧みな価格戦略の勝利であり、その後、α7Ⅲはロングセラーとして人気ランキングの上位に顔を出し続け、ソニー快進撃の象徴ともなった。
一方、X-H1は発売以来、長期低迷を続け、とうとう新品でも10万円前後まで下落した。
ところが、あまりのバーゲン価格に、最近はユーザーが再評価。発売開始から2年経過し、センサーや画像処理エンジンも旧型となったにもかかわらず、マップカメラ の4月販売ランキングでは4位に食い込んだ。(参考:THE MAP TIMES)
まさに、異例のカメラである。
X-H1は正面から見たスタイルはクラシカルで美しい。しかも、私の感覚ではグリップが深く、富士フイルムの機種の中で最も感触は良かった。
センサーや画像処理エンジンが旧型になったとはいえ、手ぶれ補正を搭載し、防滴防塵で、基本性能は必要十分なのだ。
なぜなら、今年2020年、世界報道写真大賞を受賞した千葉康由さん(48)の受賞作品は富士フイルムのX-H1で撮影されたものだった。(参考:世界報道写真賞の受賞者が使用したカメラ)
X-H1が暗闇の僅かな光の中で捉えた印象的な写真
世界報道写真大賞は最も優秀な報道写真を撮影したカメラマンに贈られる賞である。
日本人としてはベトナム戦争で米軍の爆撃から逃れるために南ベトナムの川を渡る母と子を撮影した「安全への逃避」などで世界的な報道カメラマンとなった沢田教一さん以来、41年ぶりの受賞だ。(参考:朝日新聞GLOBE+)
千葉さんの受賞作品は、2019年6月3日、治安部隊が反政府デモを弾圧し、100人以上が市場したスーダンクーデターを取材。停電中のなか、デモ隊の真ん中で携帯電話に照らされて抗議の詩を叫ぶ青年を捉えた大賞写真「まっすぐな声」。
一枚の写真が魂の叫びを立体的に訴えかけ、しかも携帯電話の光すら心に響いてくるのだ。
千葉さんがX-H1で撮影した素晴らしい写真、そして動画、さらには千葉さんの動画コメントはこちらでご覧ください。
APS-CのフラッグシップX-H1はいまなお素晴らしいカメラである。同時に、カメラメーカーのフルサイズ、そしてスペック競争とは異次元な存在として再評価され輝き始めたカメラだと思う。
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