仕事用のカメラと趣味用のカメラ
仕事と趣味のカメラ選びは自ずと異なる
最近は、100万円近いニコンD6やキヤノンEOS-1D X Mark IIIといった一眼レフのフラッグシップや、ソニーα9Ⅱやα9Ⅳを購入するアマチュアカメラマンが少なくありません。
かつては地味な存在だったプロカメラマンもユーチューブでチャンネルを持って、最上位機種の魅力を語るものですから、アマチュアカメラマンも同じ視点でカメラ選びをしてしまうのかもしれません。
私がカメラを仕事道具にしていた時代はニコンF3が最上位機種。縦グリをつけて連写しても秒間6コマ撮影にすぎません。それでも野球などスポーツ競技の撮影はなんとかなったものです。
ところが、先日発表された富士フイルムのX-T4は縦グリなしのメカシャターで秒間15コマというのですから、カメラ技術の発展も凄まじいと感じます。
むしろ、私なんかは秒間15コマも撮れてしまったらデータ選びが大変なのではないかと、逆に要らぬ心配をしてしまうほどです。
いま、私は自由人ですから、カメラは趣味の一環。自ずとプロとはカメラを選ぶ視点が異なります。
私がカメラを仕事道具と考えていた時代だったら、カメラに何を求めていたのか?
- 壊れず安定して写真を吐き出してくれる強靭さや防塵防滴性能
- オートフォーカスをはじめとした性能
- 撮影データのワークフローの利便性
こんなところでしょうか?仕事に支障をきたさない機種を選ぶわけですから、カメラのスタイルは二の次となります。
もちろん、カタログ写真やファッション関係の商業写真を撮影するプロカメラマンであれば、クロップ耐性に優れた高画素機を優先するかもしれません。
ですから、先ほど申し上げたニコンD6やキヤノンEOS-1D X Mark IIIといった一眼レフのフラッグシップや、ソニーα9Ⅱやα9Ⅳは高額であっても法人経費で購入するわけですから、カメラマンにすれば、懐が痛む話でもありません。
会社が許してくれれば、値段なんか関係なく、仕事に有利な機種を選択するはずです。
しかし、個人的な趣味カメラとなると、話が違ってきます。
趣味カメラを選ぶときの視点とは?
私が自由人になって趣味カメラを始めようと思ったとき、何を選択基準にしたのか?
- カメラのルックス
- 性能
- 値段
プロカメラとは全く異なる選択基準になりました。
もっとも大切なのはカメラのルックスです。カメラは洋服と同じですからお洒落でさりげなくてはいけません。
少なくとも漬物石のようなプロ用一眼レフや弁当箱のようなX-Pro3はちょっと腰が引けてしまいます。
その点、M型ライカは実に縦横のサイズのバランスが絶妙です。
先日、富士フイルムがX-E3の後継機種を出さないのではないかという観測記事を読みました。(参考:デジカメinfo「富士フイルムX-E4は登場しない?」)
レンジファインダー風のX-E3は安価な割には性能がよく撮影しやすい機種なので、プロカメラマンにも静かなる人気機種でもあります。
一方、X-Pro3は昨年11月から12月の発売当初こそ注文が多かったようですが、マップカメラをみると、もはや中古品がずらりとならんでいます。
買ってみたものの「こりゃだめだ」とすぐに売却した人が多かったのかもしれません。
使い難い液晶モニターに、大きな弁当箱をぶら下げているようなスタイル。まあ、当然の結果なのかもしれません。
かりに、今後、X-E4を製造しないなら、X-Pro3とX-E3を足して2で割ったようなサイズ感と、使いやすいチルト式液晶モニター&ボディー内手ブレ補正にしたら、きっと、よく売れますよ。富士フイルムさん、ご検討してみてください。
さて、提案といえば、長いこと、富士フイルムにはX-T4にバリアングルと手ブレ補正を要望してきました。
X-T4がその要望通りの機種となって登場し、案の定、ユーチューブをはじめとして物凄い評判です。マップカメラでも人気機種ナンバー1。私も胸を撫で下ろしています。
もっとも、私はバリアングルやボディー内手ぶれ補正がすぐに必要なわけではありません。
ただ、趣味カメラにはポテンシャルも大切なのです。ポテンシャルがロマンを生むわけで、その意味で、X-T4にはロマンにつながるポテンシャルが内包されているのです。
こうしてみると、趣味カメラには、売れるための方程式があるようにも思います。
ソニーと富士フイルムが売れる理由
趣味カメラに重要なのは性能よりもスタイル
多くの人がソニーのミラーレスカメラが売れている一因に、AF性能など圧倒的な技術力を挙げています。
私は否定する気はありませんが、それ以上にソニー人気を支えている土台は、実はカメラのプロポーションというかスタイルではないかと考えています。
αシリーズは、実に端正なスタイルです。
軍艦部も丸い頭ではなく、きちんと鋭角的でスマートです。
また、高級コンデジRX100シリーズも軽量コンパクトなだけでなく、スタイルも良く、これはライカとも通じる部分ですが、手にした瞬間の質感が抜群です。
とかくソニーのカメラは技術面ばかり取り上げられますが、最初にαシリーズやRXシリーズのデザインを担当した人たちはもっと胸を張っていいのではないでしょうか。
少なくとも、スタイル面でもソニーはキヤノンに圧勝していますし、ニコンにも優っています。
ソニーのカメラのスタイルを褒める人がいないので、あえて強調しておきたいと思います。
ただ、そのソニーも富士フイルムにはかないません。
先日発売された高級コンデジX100VはややM型ライカに酷似している面はあるものの、素晴らしいフォルムです。
富士フイルムを擁護したいのは、レンジファインダースタイルのカメラの造形美を突き詰めていくと、どうしてもM型ライカにたどり着いてしまうということです。
カメラの造形美には縦横の黄金比率があります。
M型ライカは、M3以降、長い歴史の中で造形の微修正を繰り返し、現在のM10に行きつきました。
しかし、気づいてみると、ライカ自身もその形はM3やM4に酷似しているわけです。
美形カメラは3パターンしかない
私はカメラの造形美は行き着くところ、次の3パターンではないかと考えています。
– | 原型スタイル | 派生系スタイル |
小型カメラ | バルナックライカ | ニコンSP、S3、ライカCL |
レンジファインダー | ライカM3 | ライカM10、フジX100V |
一眼カメラ | ニコンF3 | フジX-T3、X-T4、X-H1 |
上記の派生系は、決してデザイナーが意識的に原型を真似たという意味ではありません。結果的に似てしまったという意味で記入しています。
スタイルの感じ方は人ぞれぞれなので、上記の派生系スタイルに関しては私の個人的な感覚にすぎません。
こうしてみると、いかに歴史を重視するかどうかということが分かります。
原型をいまだに固守するライカ。一方、ニコンはあの素晴らしい造形を世に放ったニコンSPの派生系カメラを現在は製造していません。
しかも、小ぶりながら高性能な名機F3を最も彷彿とさせるのはニコン機種ではなく、富士フイルムから発売されているX-T一桁シリーズです。
ニコンはフィルムカメラ時代の終焉後、一眼レフでキヤノンと戦い、ミラーレスでソニー機に追いつこうと技術競争に目を向け、結果としてスタイリングの重要性を忘れてしまったのかと思ってしまうほどです。
いずれにしても、現在の経営状況をみると、カメラメーカーはいかに歴史を大切にすることが重要か見えてきます。
性能競争だけではカメラ業界は衰退する
人間がみて美しいと感じるものは大抵共通しているものです。
「モナリザの微笑み」を人々が美しいと感じるのは、レオナルド・ダ・ヴィンチが顔の輪郭や目と鼻と口の位置の黄金比率をわかっていたからだと思います。
カメラの造形美も同じです。
冒頭で申し上げたように趣味カメラは、洋服や靴や帽子と同じ。身につけて素敵なものが選ばれます。
今年前半は富士フイルムのX100VとX-T4がカメラファンの関心を呼び起こしました。
ついさっき、価格.comでX-T4の口コミをみていたら、ソニーαⅢからフジX-T4に乗り換えるべきかどうかをめぐって賛否両論盛り上がっていました。
もちろん、X-T4の性能や機能も必要十分です。しかし、何が人々の心をワクワクさせたかと言うと、スタイルだと私は勝手に思っています。
最近は、キヤノンが8K動画が可能な「EOS R5」の開発を発表し話題になっていますが、一方で使いきれないような性能競争についていけない人たちもいるのではないでしょうか?
冒頭、私は仕事用のカメラと趣味用のカメラでは選択基準が全く異なることを申し上げました。
ユーチューブでプロカメラマンが盛り上がっていますが、そのスペックが自分に必要なものなのか、冷静に吟味することが大切だと思います。
少なくとも、私はX-T4を最後に高スペックな機種は追いかけず、ひたすら、ルックスの良いカメラに関心を移そうと思っています。
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