何もかもが最高のスペックにSONYの余裕と意地を見た!
スペックでカメラ選びしない私でさえワクワクしたカメラ
スペックでカメラを選ばない私ですら、今回ソニーが発表したα1には驚いた。
有効5010万画素にもかかわらず、連写は秒間30コマ。プロ機α9Ⅱの秒間20コマを大幅に上回る超高速連写。しかも、ローリングシャッター歪みを抑えた「アンチディストーションシャッター」を搭載し、連射時のブラックアウトもゼロ。
リアルタイム瞳AFは新たに鳥の瞳も自動検出して追尾し、AFエリアは位相差759点・コントラスト425点で画面の92%をカバーしている。
「ミラーレスはファインダーがダメ」と、いまだに一眼レフにこだわる人たちがいるが、α1はファインダー(EVF)が944万ドットの有機ELで、ファインダー倍率は0.9倍。リフレッシュレートは世界初の240fpsだから、レフ機もびっくりの性能だ。
次に動画。キヤノンEOS R5は発売当初、8Kを売り物にしながら数分で熱停止する問題で炎上したが、α1は「なんちゃって感のある8K」ではなく、仕事でも使える動画機能を追求した。8K30pで30分間の連続撮影が可能だという。
動画で重要なのは熱対策。設計を見直して効率的な放熱構造を実現することで温度上昇を抑制したと説明している。熱対策を講じながら、本体は従来通りの小型ボディ。約128.9×96.9×80.8mm、約652g、バッテリーや記録メディアを含めても約737gだ。「ミラーレスはボディが小さくなければ意味がない」といわんばかりにα伝統の小型軽量を堅持した。ミラーレストップメーカーの哲学を感じる。
さらに、クライアントに想定される報道機関を意識して、撮影データーを本社にいち早く伝送できるようにWi-Fi機能や1000BASE-T(有線LAN)端子、HDMI Type A端子を備えた。仕事を効率化する機能も抜かりない。(詳しいスペックは公式サイトで確認してください)
要するに、α1は動きものに強いα9Ⅱ、高画素のα7RⅣ、動画のα7SⅢを足してアップデートしたカメラなのである。「こんなカメラがあったらいいのになあ」という夢を技術力で実現してしまう。そうしたワクワク感がソニーファンを引き付けて離さないのだと思う。
発売は3月19日。売り出し価格は税込み約90万円とも伝えられているが、早くも「どんなシーンでも対応できるのだから、それでも安い」というプロ写真家の声も聞こえる。
いやはや、スペックでカメラを選ばない私でさえ、そのスペックを調べたくなったモンスター機なのである。
ミラーレスカメラの勢力図はセンサー内製メーカーに収斂する
ソニーは昨年2020年7月、米国のAP通信が記者の写真・ビデオ機材を全てソニー製品に切り替えると発表した。()
報道機関のカメラ機材といえば、長らくキヤノンであり、ニコンだった。「家電屋のカメラ」と揶揄されたソニーが世界を代表する通信社に選ばれたわけだから、両メーカーのショックは大きかったに違いない。同時に、「もうレフ機にこだわる時代は終わった」と感じたはずだ。
キヤノンは昨年、8K動画の熱停止問題で炎上したものの、スチール機としては同社の技術を結集した高性能なEOS R5を発売し、販売ランキングでもトップを奪還するなど話題となった。一方、ニコンはZシリーズ第2世代となるZ7ⅡとZ6Ⅱを発売したものの、いまひとつ話題性に欠ける。販売ランキングを見てもニコンの低迷は深刻だ。
では、キヤノンとニコンの差は何か?
カメラの心臓部といえるセンサーが内製か否かという点だ。
ニコンはソニーからセンサーを買い付けている以上、最新型センサーを搭載することができない。ソニーは陳腐化したセンサーをニコンに売り、最新型は自社のカメラに搭載を考えるのが常識的な企業判断だ。その結果、ニコンの新型カメラはどうしても周回遅れ感が拭えない。
「ファインダーの見え方が〜」とか、「シャッターの感触が〜」といった古くからのニコンファンの声に耳を傾け満足してきた結果、センサー開発にリソースを割かなかったツケが重くのしかかってきたのだと思う。
だからといって、いまさらセンサー開発に乗り出すのは手遅れだ。先行投資も馬鹿にならない。では、ニコンはどうしたらいいのか?
周回遅れのニコンを救いたい!スペックより重要なことがある
趣味カメラの視点「高いお金を出してカッコ悪いカメラは買いたくない」
前々回、私は「いまのニコンZシリーズはどんなに高性能であっても触手が伸びない。その理由は別の機会に書きたいと思う」と申し上げた。
仕事にニコンF3を使い、ニコンというメーカーに郷愁の念を抱く私が、ミラーレスはソニーやフジフイルム、ライカを選んでいる。どうしてか?
ひとことでいえば、Zのデザインは格好悪いと感じているからだ。
かつてのニコンは、こんなデザインだった。(レンンジファインダーはニコンSP、一眼レフはニコンF3)
ニコンSPもニコンF3も「NIKON」の文字がきちんと真正面を向いている。このデザインがボディイメージを引き締め、端正にしている。
一方、Zシリーズの「NIKON」は何か自信なさげに右側に倒れ、しかもロゴの顎が上がっているのである。
ニコンZシリーズと対照的に、フジフイルムのX-T4はニコンF3のように「FUJIFILM」の文字が真正面を見据えている。それゆえ端正だ。
フジ機は多くのカメラファンからデザインがいいと言われているが、その源流はフィルムカメラにあるのではないかとも感じている。
ニコンはスペック競争ではなく第3の道を模索すべきではないか
ニコンの池上博敬・常務執行役員は「当面はミラーレス集中、勝負はこれからだ」と題した東洋経済のインタビューで、「ニコン製作のEVFは非常に性能がよく、他社と比べても評価は高い。一眼レフのOVFと見分けがつかないという評価もあり、自信につながっている」と述べている。
確かにEVFの見え方は大事だ。ただ、それでは一般消費者の心を動かす決定打になりえない。逆立ちしてもソニーの技術力には勝てないのだから、まずはデザインが重要だ。仕事用カメラならデザインを我慢できても、趣味カメラはそうはいかない。一般ユーザーは「何十万円も身銭を切るのだから、せめてカッコ良いカメラを買いたい」と考えるのが人情だ。
暴論をもうひとつ。ニコンがミラーレスの心臓部・センサーを内製化するのが難しいのなら、逆転の発想でソニーEマウントのレンズを生産・販売してみてはどうか。収益的には得策かもしれない。最も売れているEマウント用レンズ群に参入し、世界一流のAFレンズメーカーとして生き残る「第3の道」はどうか。
フィルム事業の衰退に伴って収益源を変革したフジフイルムのように、ニコンも思い切ったビジネス戦略の変更を検討すべきなのではないかと思う。
ただし、完全にカメラから手を引くのではなく、カメラの”スペック競争”から手を引く。日本光学の原点に立ち返ってデザインに優れたS型レンジファンダーやニコンF、F2、F3といったニコン黄金期のデジタル版を生産・販売することで、将来的にライカのような道筋が見えてくるかもしれない。
今回はソニーの化け物スペックのカメラα1に驚き、スペック的には周回遅れとなったニコンへの懸念とエールを記した。ニコンにはとても辛口な記事になったと思うが、これも愛情表現と受け取っていただければ幸いだ。
最後に、デザインの感じ方には個人差がある。本稿はあくまで私の個人的感覚であり、絶対的な感覚や評価でないことを付け加えておきたい。
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